鍼灸の賠償責任保険は加入すべき?鍼灸師向けの賠償責任保険と選び方のポイントを紹介

鍼灸師として働くうえで避けられないのが、医療過誤や医療事故のリスクです。

保険の解約や見直しをきっかけに、新たに保険を考えなければいけない方もいるのではないでしょうか。

ただ、「自分にピッタリな保険」を見つけ出そうにも、保険の内容がややこしく、まとまった情報がないため、途方に暮れてしまうでしょう。

そこでこの記事では、鍼灸師が加入した方ががいい賠償保険や選び方のポイントについて解説します。

鍼灸の賠償保険選びに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

今回の記事の監修者

監修者:仲嶋 隆史
東雲鍼灸治療院院長/鍼灸師/柔道整復師 

<主な活動・経歴>
福岡市鍼灸師会 会長
福岡県鍼灸マッサージ師会 副会長兼財務部長
全日本鍼灸マッサージ師会 業務執行理事、スポーツケア委員長、災害対策委員長
全日本鍼灸学会 組織副部長、九州支部事務局、学術委員
全日本鍼灸学会認定鍼灸師(第663号)
福岡スポーツ鍼トレーナー部会事務局(平成27年~)

鍼灸師の治療行為におけるトラブルリスクは大きい

鍼灸は直接体に触れるため、予期せぬ事故や訴訟リスクは発生しやすいと言えます。

どれだけ経験を積んでいても、いろいろなリスクがゼロになることはありません。

例えば、以下のようなリスクがあります。

  • 折鍼により、体内に鍼が埋没してしまった
  • 刺鍼ミスによって神経や血管を傷付けてしまい、症状が悪化した
  • (背中)置鍼中の患者さんに掛け布団をかけたことで、気胸を起こしてしまった
  • 手技によって後遺症が残ってしまった

さらに、患者さんが治療後に「なんだか体調が悪い」と訴え、それが鍼灸治療のせいだと主張されることもあります。

無実を勝ち取っても、費用は自己負担の場合も

とある鍼灸院にて、通っていた患者さんから施術ミスを訴えられる実例がありました。

患者さんは「消毒不足で細菌感染した」として、院長に128万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。

結果として、2年間の裁判で無実を証明することができました。しかし、無実を晴らすためにかかった弁護士費用90万円は、自己負担でした。

最終的に、その院長が加入していた協会が、その費用を負担しましたが、他のケースでは弁護士費用200万円が自己負担になったケースもあったとのことです。

参照元:施術訴訟で完全勝訴するも無実証明に90万円 – Webひーりんぐマガジン (e-shugi.jp)

鍼灸師は治療ミスで高額賠償を負う

鍼灸治療によって、損害賠償責任を負う場合、高額になりやすいです。

気胸や後遺症、折鍼のトラブルでは、手術や入院、その間の長期休業分の補填などさまざまな費用が発生します。

そのため、損害賠償責任を負う鍼灸師に対して、3,000万円以上の高額な賠償金を請求されることは珍しくありません。

賠償責任保険と施設賠償責任保険で身を守ろう

患者さんの治療に全力を尽くすためにも、トラブルから守るための備えが必要です。

経費削減を目的に保険に加入しない選択肢もあるかもしれませんが、「必要ない」と判断する前に、賠償責任保険がカバーする範囲を理解しておきましょう。

鍼灸の賠償責任保険は、治療上のトラブルをカバーしてくれる

鍼灸の賠償責任保険は、治療中に患者さんに身体的な障害を与えたり、死亡させてしまった場合に発生する損害賠償金をカバーします。

また、個人情報の漏洩によって生じた損害も含めて補償してくれる保険もあります。

保険によって内容は異なりますが、保険金が下りうる対象は主に以下のケースです。

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損害賠償金被害を受けた人に対して、その損害を補償するために加害者が支払う賠償金
争訟費用損害賠償の裁判に伴う、訴訟費用や弁護士報酬、調停、和解または仲裁などの法的手続きにかかる費用
事故対応費用緊急事態時に必要な治療費や移送費、個人情報漏洩のセキュリティ保全などの費用。
法律相談費用事態が大きくなるおそれの対応のために、専門の法律事務所・弁護士に対して支払う相談費用。
保険会社の支援費用保険金を受け取るための必要な手続きや損害事故に関する調査、証拠の提出、担当者の交通費を含めた費用
示談交渉費用訴訟を起こさずに和解・示談を成立させるために発生する費用。弁護士や専門家の助言、代理人費用、書類作成費を含めた費用。

賠償責任保険に加入しておけば、高額な賠償金を補償してくれる安心があります。

また、もしトラブルが発生した際、自己判断で解決させようにもかえって事態が大きくなってしまう場合があります。

しかし、保険に加入しておけば、専門家との相談ができ、プロによる的確なアドバイスによって冷静な判断をすることができます。

保険金が支払われるケース※

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支払い事例内容
誤診と施術ミスによる症状の悪化誤診と施術ミスにより患者の症状を悪化させてしまった
誤った刺鍼により損傷を与えた患者に鍼を誤って深く挿入し、内臓や神経を損傷させた
気胸を起こしてしまった肺の深さまで刺鍼してしまい、気胸を起こしてしまった
感染症が発症した消毒不十分な器具を使ったことで、患者が感染症を患ってしまった
火傷を負わせたお灸の施術中に、お灸が誤って肌に直接触れてしまい、火傷させてしまった
アレルギーを起こした金属などが原因で、アレルギー反応を起こした
誤った手技により脱臼や筋肉損傷を起こした無理な体位変換や誤った施術により、患者が脱臼や筋肉損傷を受けた
鍼の取り忘れによる健康被害施術後に鍼を取り忘れたことで患者に健康被害を起こした
個人情報が流出した誤って違う患者さんへ請求書を送ってしまったことが原因で、被害が起きてしまった
各製品の比較

※各保険会社によって、支払われるケースが異なる場合があります。

保険金が支払われないケース※

・保険契約者、被保険者の故意によるもの
・無資格者による鍼灸施術など、資格を有していない者が起こした事故
・被保険者と同居する親族に対する損害賠償
・美容を目的とした施術で、仕上がりが悪いことによるトラブルが起きた場合
・医師の同意なしに、骨折や脱臼をした患部に施術したことで健康被害が出た
・自然災害による被害(地震、噴火、洪水、津波、高潮など)

※各保険会社によって、支払われないケースが異なる場合があります。

賠償責任保険だけでなく、施設賠償責任保険もセットで加入すべき

鍼灸の賠償責任保険は、治療上のトラブルに限定されますが、鍼灸院のリスクはそれだけではありません。

施設の欠陥・管理不足による事故、患者さんの所持品の損壊や紛失といったリスクもあります。

施設賠償責任保険では、こうした施設に関係する事故やモノのトラブルをカバーします。

賠償責任保険と施設賠償責任保険をセットで加入することで、治療中の事故から施設の不備によるトラブルなど、より広範囲のリスクに備えることができます。

保険金が支払われるケース※

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支払い事例内容
床の滑り事故院内の床が濡れていたことで患者さんが転倒し、骨折してしまった
設備の管理不足機材が患者さんにぶつかり、ケガを負わせてしまった
患者さんの車を傷つけた看板が患者さんの車に落下し、壊してしまった
患者さんの所持品を紛失した預かっていた患者さんの所持品を紛失してしまった
患者さんの所持品を損壊した誤って患者さんのメガネを踏んでしまい、壊してしまった
各製品の比較

※各保険会社によって、支払われるケースが異なる場合があります。

主に保険金が支払われないケース

・保険契約者、被保険者の故意によるもの
・被保険者と同居する親族に対する賠償責任
・泥棒によって被害を受けた
・院内での盗難として通報された場合
・自然災害による被害
・排水または排気(煙など)によって、引き起こした被害
・施設の修理、改装、取り壊しなどが原因で引き起こした被害

※各保険会社によって、支払われないケースが異なる場合があります。

個人で加入することは難しい

経費を抑えるために、個人で加入できる保険会社を探している方も多くいます。

しかし、鍼灸の賠償責任保険の場合、保険会社が提携する団体への加入が条件となることがほとんどです。

なかには、個人で加入ができる保険会社もあるかもしれませんが、保険料は割高になる傾向があります。

そのため、保険会社が提携する団体に加入してから保険を契約するのが一般的です。

団体には相談窓口が設置されていることが多く、保険を申請する際にも非常に役立ちます。

保険会社が提携している主な団体

・学校
・協会
・(公社)日本鍼灸師会

日本鍼灸マッサージ協同組合

専門学校の卒業生であれば、学校が用意する保険をチェックすることをおすすめします。

費用が安く、補償内容が手厚いことがよくあります。

それぞれの保険ごとに費用や補償の範囲が違うため、各社から資料を取り寄せて比較することをオススメします。

鍼灸向け賠償責任保険の一覧と選び方

鍼灸師向けの賠償責任保険一覧

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保険会社提携団体
三井住友海上火災保険(公社)日本鍼灸師会
(公社)全日本鍼灸マッサージ協会
詳細をみる
東京海上日動パートナーズTOKIO対象の学校詳細をみる
日本保健鍼灸マッサージ
柔整協同組合連合会
詳細をみる
日本治療協会詳細をみる
一般社団法人全国鍼灸マッサージ協会詳細をみる
鍼灸師向けの賠償責任保険会社一覧

賠償責任保険のみのプランもあれば、施設賠償責任保険も含めている保険もあります。

まずは、複数の保険会社の内容を比較して、自分のリスクに合った保険を選びましょう。

選び方のポイント

1.保証対象者の確認

保険の対象範囲を必ずチェックしましょう。

契約者のみが対象で、スタッフが対象外となる保険もあります。

スタッフを雇っている場合は、全員がカバーされる保険を選びましょう。

2.施設賠償責任保険の付帯を確認

賠償責任保険には「施設賠償責任保険」が含まれていることが多いですが、含まれていない場合もあります。

施設に関連するトラブルをカバーするために、施設賠償責任保険の有無を確認しましょう。

もし、施設賠責保険が付いていない場合、別の保険会社でカバーするかオプションで付けるようにしましょう。

3.対象となる診療形態を確認

診療形態によって保険の適用範囲が異なるため、訪問や出張でのトラブルにも対応しているのか確認が必要です。

最近では、美容鍼灸のトラブルに対応した保険もあります。

自分の診療形態に合わせて、保険選びをしましょう。

一般的な加入の流れ

STEP1 お問い合わせ、資料請求

各都道府県の鍼灸師会、鍼灸マッサージ師会に問い合わせるか、資料請求を行うと、保険担当者から詳細な情報が提供されます。

加入条件と保険内容を確認しましょう。

STEP2 加入手続き

必要に応じて、保険会社が提携する団体に加入し、保険の加入手続きを進めます。

申請書類は、郵送またはWEBから手続きができます。

STEP 3 契約完了

保険開始日や保険料の支払い方法を設定し、保険料を指定の口座に振り込むことで契約が完了します。

まとめ

鍼灸師として保険に加入しないと、万が一の賠償責任が発生した場合に自身の資産から全額を負担するリスクがあります。

また、トラブル発生時に保険会社のサポートが受けられないため、事態が悪化する可能性もあります。

鍼灸という職業は、どれだけ注意していても事故のリスクが高いです。

キャリアを守るためにも、日ごろからトラブルに備えて保険に加入しておくことが重要です。

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