鍼灸師として最適な施術を行うために欠かせないのが「問診」です。
患者の症状や体質、生活背景を深く理解することは、施術の質に大きく影響します。
この記事をご覧の方も、日々問診スキルを向上させたいと考えているのではないでしょうか。
しかし、具体的に何をどう聞き出すべきか、どこまで踏み込むべきか、迷う場面も多いかもしれません。
そこで本記事では、東洋医学の基礎である「四診」の考え方から具体的な問診の内容、トーク例、問診のコツを詳しく解説します。
問診の技術を磨きたいとお考えの鍼灸師の方は、ぜひ参考にしてください。
東洋医学の基礎『四診』について

東洋医学の診察法には「四診(ししん)」と呼ばれる4つの基本的な診断方法があります。
- 望診(ぼうしん)…視覚を使う
- 聞診(ぶんしん)…聴覚と嗅覚を使う
- 問診(もんしん)…患者の言葉を聞き取る
- 切診(せっしん)…触覚を用いる
これらは単独で使われるのではなく、相互に補完し合いながら患者の全体像を捉えるために行われます。
西洋医学の問診・診断は「病状を判断し、病名を決定すること」であるのに対し、東洋医学では「すでにある治療法のうち、どの治療法を選択するか」という目的のためにあります。
患者一人ひとりに合わせた治療を行う東洋医学の根幹をなす手法ですので、自身の問診を模索している方だけではなく、すでに取り入れている方もこの機会に復習しましょう。
望診
望診(ぼうしん)とは、視覚を用いて患者の状態を観察する診断方法です。
患者の外見、顔色、肌つや、表情、目つき、体型、髪、爪、姿勢、動作などから健康状態を観察します。
また、体内の状態(五臓の働き)を診るときには舌の色や形、苔(舌苔)の状態を見る「舌診」が重要になります。
▼正常な舌の状態
- 舌体の形態:萎縮や腫腸、強ばりや歪みなど、目立った形態変化がない
- 舌質の色:淡紅色
- 舌苔:舌の中心部に薄い白苔があり、適度に潤いがある
▼病理的な舌の状態(一例)
- 【舌体の形態】
胖舌(はんぜつ):舌体が腫れて大きいもの|陽虚、熱盛など
歯痕舌(しこんぜつ):舌体のふちに歯の跡がある|気虚、脾虚など
- 【舌質の色】
紅舌(鮮紅舌):正常な舌色より赤いもの|実熱、陰虚による虚熱
紫舌(青紫舌):舌色が青紫のもの|血瘀、寒証など
- 【舌苔】
乾舌:苔が渇いているもの|津液の損傷、陰液の損傷、燥邪
膩舌(じたい):苔がねっとりし、剥がれにくいもの|痰飲、湿濁
望診では外見の特徴や舌の観察を通じ、病態を把握します。
聞診
聞診(ぶんしん)とは、聴覚と臭覚を用い、患者の発する音や臭いから状態を診断する方法です。
患者の声、発語、呼吸音、さらに体臭や口臭などの特徴から、病状や体質を判断します。
▼例
- 虚証:声が弱々しい
- 実証:声が荒々しい
- 肺の乾燥:咳の音が乾いたもの
- 痰湿:咳の音が湿ったもの
体臭は一般的に、悪臭があるものは熱証・実証のものが多く、生ぐさい臭いがするものは虚証・寒証のものが多い傾向があります。
このように聞診は音と臭いを通じ、体の内部の状態を感覚的に診断する手法です。
問診
問診(もんしん)は患者や家族から症状や日常生活について詳しく聞き取り、病態を把握する診断方法です。
主訴に重きを置いて問診する西洋医学とは異なり、東洋医学の問診は主訴以外の症状や、主訴にまったく関係なさそうな飲食、便通、生活リズム、性格の特徴なども聞き出していきます。
これにより、気血水のバランスや体質を総合的に判断し、治療の方針を定める材料にします。
具体的な問診内容は、次章で紹介します。
切診
切診(せっしん)は、患者の身体に直接触れ触覚を用いて症状を診断する方法で、脈診や腹診が含まれます。
脈診の場合は、脈の速さや強さ、緊張度を確認し、体内の寒熱や気血水の状態を把握します。
例えば、脈が弱く遅い場合は虚寒証を疑い、速く強い場合は実熱証を疑います。
また腹診では、腹部の緊張や圧痛などから情報を集めます。
例えば、腹部に硬さや痛みがある場合は、内臓の問題や気滞の可能性を考慮します。
切診は四診の中でも、感覚的な精度が求められる手法です。
参照:東洋医学概論|医道の日本社
具体的な問診の内容

四診のなかでも「問診」は患者の症状や生活習慣、体質を多角的に聞き取り根本的な原因を明らかにする重要なステップです。
ここでは問診で「何を聞くのか」について詳しく説明していきます。トーク例もご紹介しますのでご参考ください。
問診の内容
問診では一般的に次のような内容を聞いていきます。
- 基本情報:お名前、年齢、性別、職業など
- 主訴:現在お悩みの症状の経緯、発症時期、痛みの性質、他の医療機関への受診歴など
- 既往歴:過去の病歴や治療経過など
- 体質の傾向:寒がり・暑がり、疲れやすさ、眠りの質、食欲の有無、便通や尿の状態など
- 生活習慣:食事の内容、運動習慣、ストレス状況、日常生活のリズム
- 女性の場合:生理周期や経血・おりもの量、生理痛、妊娠状況、出産経験、授乳中かなど
これらの質問に加え、患者の言葉や表情、回答の仕方など前章の望診・聞診・切診も組み合わせて情報を得ていきます。
また、患者が施術を希望する目的を明確にすることも重要です。
「症状をどうしていきたいのか?」「今回の施術で何を期待するのか?」「鍼灸治療の経験の有無は?」「そもそも鍼灸を希望するか否か?」についても事前に確認し、施術方針の方向性を患者と共有しておきましょう。
問診票の活用
問診を効率的かつ漏れを少なくするために便利なツールが『問診票』です。すでに多くの先生方が取り入れられているかと思います。
患者の基本情報や症状、生活習慣、体質などを事前に記入してもらうことで、対面での問診の際に重要な項目を深堀しやすくなります。
また、患者自身が身体の状態を整理する機会にもなり、伝え忘れを防ぐことにもつながります。
「何を聞くんだっけ?」「さっき聞きそびれた!」と焦ることがないように問診票もセットで上手に活用していきましょう。
▼問診票イメージ


ここからは問診のトーク例を3パタ-ンご紹介します。
問診のトーク例①:痛みのある個所を特定する場合

本日担当します、鍼灸師の〇〇です。
どうぞよろしくお願いいたします。本日はどのようなお悩みでご来院されましたか?



最近腰が痛くて、特に朝起きた時が辛いんです。



それはお辛いですね。
朝以外ではどのようなときに痛みが強くなりますか?



長時間座ったり、重いものを持つと特にひどくなる気がします。



なるほど。
普段の生活で腰に負担がかかる姿勢や動作が影響しているのかもしれませんね。
施術の前に少し姿勢を確認させていただき、施術の方針をお伝えします。
このように患者の具体的な悩みを聞き出しながら共感を交えることで、安心感を与えつつ治療方針を共有していきます。
問診のトーク例②:冷えやむくみの悩みを掘り下げる場合



本日担当します、鍼灸師の〇〇です。
どうぞよろしくお願いいたします。本日はどのようなお悩みでご来院されましたか?



昔から体が冷えやすくて、足のむくみにも悩んでいるんです。



足のむくみや冷えは気になりますよね。
特にどのようなときにむくみが強くなりますか?



夕方です。立ちっぱなしだった日は特に感じます。



それは疲れが溜まりやすい状態かもしれませんね。
東洋医学では、冷えやむくみは気血の流れの滞りが関係すると考えられています。
今日の施術ではその流れを改善しつつ、日常でのセルフケアをご提案させていただきます。
患者の悩みを具体的にし、施術の意図を説明することで、施術への期待感を高めます。
問診のトーク例③:初診での緊張感を和らげる場合



こんにちは。本日担当させていただく、鍼灸師の〇〇です。
よろしくお願いいたします。



こちらこそ、よろしくお願いします。



〇〇様は今回初めてのご来院ということですが、
少し緊張されていませんか?



はい、少しだけ…。



大丈夫ですよ。
当院ではゆっくりお話を伺いながら進めますので、
ご不安なことがあれば何でも教えてくださいね。



今日は何か特にお悩みのことはございますか?



最近肩こりがひどくて…。



それはお辛いですね。
どんなときに痛みが強くなることが多いですか?
初診の患者は不安や緊張を抱えることが多いため、穏やかな口調で話しやすい雰囲気を作ることが大切です。
また、「緊張していませんか?」といった共感のある質問を挟むことで、心の壁を和らげる効果につながります。
問診のコツ4つ


問診は患者の悩みや症状を正確に把握し、一人ひとりにあった施術を行うための重要なステップです。
しかし、実際の問診では限られた時間の中で、どれだけ深く、的確に情報を引き出せるかが問われます。
そのためには、患者がリラックスできる環境づくりや、患者の気持ちに寄り添う聞き方、質問の工夫が欠かせません。
この章では、患者と信頼関係を築きながら有意義な問診を行うためのコツを以下4つ紹介します。
- リラックスできる環境づくり
- 丁寧に聞くテクニック
- 開かれた質問をする
- WEB問診を活用する
コツ①:リラックスできる環境づくり
初めて鍼灸院に来院する患者の中には、不安や緊張を抱えて来院する方も少なくありません。
緊張していると、患者は本音や重要な情報を言い出しにくく、共有しづらくなります。
問診の際に患者がリラックスできる環境を整えることは、信頼関係を築き、深い情報を引き出すための基本です。
例えば、待合室や施術室に落ち着いた音楽を流したり、自然の香りがするアロマやお香を取り入れると効果的です。
さらに、問診の際は座る位置や目線の高さを合わせる、笑顔で優しいトーンで話すなど、対話がしやすい姿勢を心がけましょう。
患者に「寒くないですか?」や「お飲み物は必要ですか?」と声をかけるのも良いでしょう。
基本的なことですが、このようなさりげない心遣いは患者の安心感や信頼関係に影響します。
コツ②:丁寧に聞くテクニック
患者は自身の体調や悩みを言葉にするとき、緊張や不安を感じやすいものです。
「丁寧に聞く」ことができると患者が安心して自分の状況を話せるようになり、より正確な情報を得やすくなります。
また、話をしっかり受け止めることで、「この先生は自分を大切に、真剣に考えてくれている」という信頼感が生まれます。
そのための具体的なテクニックとして、以下3つを紹介します。
・傾聴
患者の話に集中し、うなずきや適度な相づちを取り入れます。このとき、患者の表情や声のトーン、視線、呼吸などにも集中しましょう。
・共感
患者の立場に立って気持ちを理解し、共感の意を示します。「それは大変でしたね」「しんどいですよね」といった言葉を添えると、心の距離が縮まり、患者も安心感を覚えやすくなります。
・オウム返し
オウム返しは、患者の発言を整理し要点を繰り返すことで、患者が「理解されている」という安心感につながります。また、患者が話しやすくなり、さらに詳しい状況を引き出す自然な流れを作ることができます。ただし、頻繁に繰り返すと逆効果になるため注意が必要です。
これらをバランスよく活用し、患者に寄り添う姿勢を大切にしましょう。
コツ③:開かれた質問をする
「開かれた質問」とは、患者が自由に考えや感情を表現できる質問方法です。対して、「はい」「いいえ」で答えられる質問を「閉ざされた質問」といいます。
開かれた質問を行うことで、患者からより詳しい情報を引き出すことができます。
例えば、「最近の体調で気になることはありますか?」「どのようなときに痛みを感じますか」といった質問をすることで、患者の生活習慣や背景などの多くの情報が得られ、話を広げやすくなります。
一方で、必要に応じて「特に朝起きたときですか?」と絞り込む質問を加えると、より具体的な情報を得やすくなります。
コツ④:WEB問診を活用する
WEB問診の活用もおすすめです。
患者に事前にWEB問診を実施してもらうことで、来院前に症状や生活背景を把握できるため、問診中の質問を準備しやすくなります。
また、主訴について鍼灸院では対応が難しい重篤な症状や緊急性の高いケースの場合、事前に適切な医療機関の受診を勧めることもできます。
WEB問診は患者とのコミュニケーションを円滑にし、施術の精度を高めるための便利なツールです。
例えば、「鍼灸つながるカルテ®︎」を使用すれば、「はりのマイカルテ」から問診票を送信してもらうことが可能です。
※25年3月を目処に「WEB問診票」の機能も実装されます。


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まとめ
本記事では、問診でお悩みの鍼灸師の方向けに、東洋医学の基礎である「四診」の考え方から具体的な問診の内容、トーク例、問診のコツを解説しました。
心とからだをほぐして整える東洋医学の治療は、鍼灸を施すときだけではありません。
患者が自分の悩みを何とかしたいと思い鍼灸院の扉を開けたとき、または来院の予約をしたときから、安心感や信頼感の構築は始まっています。
特に直接対話する問診は、患者の心を開き、的確な治療へ導くために欠かせないプロセスです。
東洋医学の治療効果を最大限に引き出すための鍵となりますので、問診スタイルにお悩みの方はぜひこの記事を参考にしてみてください。