鍼灸院向けの事業計画書の記入例と書き方を解説

これから開業準備を始める方や、資金調達を考えている方にとって

「事業計画書の作成」は避けては通れないでしょう。

しかし、いざ作ろうとすると「決まった様式があるのか」「書き方がわからない」「融資・助成金が通りやすくなるかわからない」と多く悩むでしょう。

そこで本記事では、鍼灸院の事業計画書の作り方から、融資・助成金を受けやすくするための具体例やポイントを解説します。

また、すぐに使えるテンプレートや作成の流れまでご紹介します。

スムーズに始めるためにも、ぜひ参考にしてください。

目次

事業計画書とは

開業を考えたとき、はじめにぶつかる壁が事業計画書の作成でしょう。

事業計画書は、開業後およそ3~5年ほどを、どのように進めていくのかを描いた「地図」のようなものです。

具体的には、事業内容や集客方法、売上、支出の見込みなどを見える化した書類です。

事業計画書を見ることで、開業後の鍼灸院の姿をはっきりとイメージできるようになります。

【事業計画書の記入項目】
  • 創業動機
  • 経営者のキャリア・実績
  • サービス内容
  • 従業員数
  • コンセプト
  • 開業資金
  • 運転資金
  • 必要融資額
  • 売り上げ予測
  • 経費予測
  • 集客方法

事業計画書が必要である4つの理由

事業計画書は、開業失敗を避けるためにも欠かせないステップとなります。

さまざまな場面で必要となるシーンがあるため、ご紹介をします。

コンセプトと強みを明確にするため

事業を始めるときは、競合との差別化が大切です。

開業後、競合に負けて失敗しないよう、コンセプトと強みを固めておく必要があります。

とくに、融資を受けるために事業計画書を作成する場合、金融機関はコンセプトと強みをもとに、事業が成立するか、競合に負けないかを判断します。

コンセプトと強みを明確にすることで、開業後にリサーチすべきポイントや集客の見込みなど、さまざまな判断をすることができます。

融資や補助金を受けるため

鍼灸院の開業には、「開業資金」と「運転資金」の2つの大きな費用がかかります。

個人でこれらの資金を調達のは難しく、融資や助成金を受けることがほとんどでしょう。

資金調達の代表的な方法としては、「日本政策金融公庫」や「銀行からの融資」、「行政の助成金」があります。

いずれにしても、鍼灸院の経営像を知ってもらうために事業計画書を求められます。

融資・助成金を受けやすいようにするためにも、開業後の収益性と将来性をイメージしやすい事業計画書を作成しなければいけません。

具体的な経営戦略プランを見える化するため

融資を受けるためだけに作ると思われがちですが、経営プランを立てるうえで大きなメリットがあります。

一度計画書として見える化すれば、考えが整理され、新しいアイデアが生まれることがあります。

また、経営プランを客観的に評価でき、第3者から経営に関するアドバイスを受けることができます。

事業の進め方がクリアになると、迷いが少なくなり、失敗リスクを最小限に進めるためのヒントが見えてきます。

資金不足を防ぐため

開業する際には、さまざまな費用が発生します。

開業初期の出費に問題なかったものの、その後の運転資金で資金不足に陥るケースは珍しくありません。

事業計画書を作成することで、将来のお金の流れまで見える化することができます。

収入と支出のバランスを時期ごとに整理することで、資金不足を防ぐだけでなく、資金をムダなく活かすことができます。

いつから作成すべき?

事業計画書を作成するタイミングは、主に以下の通りです。

事業計画書を作成するタイミング
  • 開業時
  • 新規事業の計画時
  • 融資・助成金の申請時

上記のタイミングを行う6~18カ月前に事業計画書を作成することをおすすめします。

事業計画書を作成するには、鍼灸院全体を見渡すための時間が必要です。

また、記載すべき項目も多いため、その分、長く時間がかかるでしょう。

作成後も、事業計画書を第3者に見てもらい、繰り返し修正することがほとんどです。

そのため、ゆとりをもって事前に作成することが求められます。

開業を検討している方は、以下の記事でさらに詳しく解説していますので、ぜひご参考にしてください。

鍼灸院向け事業計画書・テンプレートのダウンロード先

実際に鍼灸院の事業計画書として使えるテンプレートをご紹介します。

紹介するテンプレートを使って、効率的に計画書を作成し、開業準備を進めましょう。

日本政策金融公庫のテンプレート

日本政策金融公庫では事業計画書のフォーマットが提供されています。

このフォーマットは、日本政策金融公庫の審査基準に合わせて、フォーマットが作られています。

そのため、融資を受ける際、審査がスムーズに進められるメリットがあります。

日本政策金融公庫のテンプレート

マネーフォワードクラウドのテンプレート

マネーフォワードクラウドは、会社設立・創業をサポートしている会社です。

事業計画書・創業計画書のテンプレートを70種類以上もの数を取り揃えています。

テンプレートだけでなく、書き方のコツや具体的な記入例も得られるため、実際の作成に役立ちます。

70種類以上の事業計画書のテンプレを自由にダウンロード! – マネーフォワード クラウド会社設立

鍼灸院の事業計画書・創業計画書のテンプレート – マネーフォワード クラウド会社設立

J-Net21(中小機構)のテンプレート

中小企業・独立した人の経営をサポートする会社です。

個人事業主に対しても役立つテンプレートやガイドがあるため、非常に便利です。

各種書式ダウンロード | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

事業計画書の作成例 | 起業マニュアル | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

事業計画書の作成の流れ

STEP
開業までのスケジュール表を作る

まず、事業計画書とは別に、開業に向けたスケジュール表をおおまかに作りましょう。

開業までにやるべき準備を整理し、どのタイミングで何をするのかを書き出しておくことが大切です。

「買うタイミングはいつなのか?」「費用はどれくらいか?」「支払い期限はいつまでか?」といった具体的なことを整理しておくことで、今後の動きについて現実的な見通しが立てやすくなります。

開業までのスケジュールについて、以下の記事にて詳しく解説しています。

院の規模や場所によって変わるため、一概に言えない部分もありますが、ぜひ参考にしてください。

STEP
必要な開業資金の見積もりを出す

開業資金には、「設備資金」と「運転資金」の2つに分類されます。

必要な「設備資金」に加えて、開業時には6ヶ月分の運転資金を用意しておくと良いと言われています。

【設備資金の一例】

  • 内装、外装費用
  • 備品の購入費用(ベット等)
  • 使用する機械の購入費用
  • 看板の設置費用
  • 入居費(敷金・礼金・保証金等)
  • ホームページ作成費用

【運転資金の一例】

  • 家賃
  • 人件費
  • 広告費
  • 備品費・消耗品費(鍼・灸、タオル、消毒液等)
  • 通信費
  • 保険料
STEP
支出の見積もりを出す

資金不足に陥らないように、毎月の支出を整理し、無理のない運営コストのプランを立てましょう。

たとえば、毎月かかる固定費には、人件費、家賃、光熱費などあります。

さらに、売上高に応じて変動する費用にも注意が必要です。

たとえば、鍼や施術材料の費用、予約システムの利用料などは、患者数によって負担が大きくなるため、あやかじめ見積もっておくべきです。

STEP
収入の見積もりを出す

まずは、手元に残したい収入額を見積もりましょう。

そこから、開業費用に伴う月々の返済ローン額や運転資金などを計算し、最終的にどれだけの売上が必要なのか算出します。

以下の3つのポイントに絞ることで、必要な売上収入が見えてきます。

  • 1日の患者数
  • 1人あたりの平均診療単価
  • 診療日数

収入計算式

1ヶ月の必要売上 = (1日の患者数 × 1人あたりの平均診療単価 × 診療日数)

【例】

  • 1日の患者数 = 10人
  • 1人あたりの平均診療単価 = 5,000円
  • 診療日数 = 20日

計算すると: 1ヶ月の必要売上 = 10人 × 5,000円 × 20日 = 1,000,000円

まずは、1ヶ月辺りの来院患者数を見積もり、試算してみましょう。

事業計画書に書く項目・記入例

開業の動機

実績や計画をしっかり伝えることで、どれだけ本気で準備をしているかを審査する重要なポイントになります。

【記入例

私は○年間の勤務経験し、そこで店長として月○○人以上の患者さんを診ていました。

次第に、患者さんに○○したいという気持ちが強くなり、開業を目指しました。

開業に向け、○○万円の自己資金を貯めました。固定客も○○名ついており、開業後の期待客として見込めます。

また、駅近くの良い物件をみつけ、周辺エリアに同じコンセプトの競合もないことから、売上の見通しが立ち、開業を決意しました。

【参考ポイント】

  • ○年間の勤務経験を積み、○○人以上の患者を施術してきた
  • ○○万円の自己資金を貯め、開業資金の見通しを立てた
  • 固定客が○○名ついてきた
  • 駅近くの通り沿いにコストにみあった良い物件が見つかった
  • 周囲に同じコンセプトの競合がなく、調査により売上を見込める見通しが立ったため

「開業したい」という気持ちだけでは説得力が弱いため、専門性や経験、ビジョンを伝えることが大切です。

技術や経営ノウハウを身に付けたことを強調し、それが事業の成功にどう繋がるかビジョンを示しましょう。

経営者の略歴等

開業に向けて、これまでの経験や実績をしっかりアピールしましょう。

これまでの実績や専門的なスキルだけでなく、経営に必要な能力をもっている印象を与えることがポイントです。

【例】<職歴>

平成○年△月 〇〇鍼灸専門学校卒業(鍼灸師免許取得)

平成○年△月 〇〇鍼灸院に入社(○年間勤務)
→ 月○○人以上の患者を施術
→ スポーツ疾患を中心とした患者を診療

平成○年△月 〇〇鍼灸院 店長職として勤務(○年間)
→ スタッフ○○名を指導・教育を担当
→ 売上向上や顧客満足度の向上に貢献し、年間○%の売上増加を達成

令和○年○月 鍼灸院開業予定

サービス内容・取扱商品

どんなサービスを提供するのかを明確に伝えましょう。

以下のようにサービス内容や売上シェアを整理して、事業の全体像が伝わるようにします。

記入例

① 鍼灸治療(腰痛・肩こり・自律神経など) 売上シェア 50%
②保険診療 売上シェア 30%
③ 整体系(骨盤矯正・ストレッチ) 売上シェア 20%

メインの施術や売上の予測を整理することで、どのサービスに重点を置いているかが伝わります。

【セールスポイント】

競合と差別化できるポイントを明確に伝えます。

個別対応:細かなヒアリングとオーダーメイドの施術を行う

立地:駅から徒歩5分の好立地

ターゲット層:働き世代を中心とした中年層に向け、仕事帰りにも通いやすいように営業時間を長く設定

取引先・取引関係等

鍼灸院における取引先とは、患者さまの見込みのことを指します。

見込み患者の記載だけでは不十分で、どのような患者層をターゲットにするのかを明確にする計画が必要です。

【記入例・ポイント】

患者さんの見込みシェア掛取引の割合回収・支払条件
取引先患者個人
(保険診療)
60%○%○日〆○日回収
患者個人
(自費診療)
40%○%○日〆○日回収

ターゲットとなるお客様の年齢や性別、職業、住んでいる地域など、イメージしやすいように記載しましょう。

ターゲットの例
  • 〇〇エリアに住む30〜50代の会社員・自営業者
  • 〇〇駅を利用するビジネスパーソン
  • デスクワーク中心の職業の人

従業員

『従業員』欄には、予定している従業員の人数を記入します。

開業時、自分1人のみの場合は、自分を含め「従業員:1人」と記載してください。

借入状況

借入状況では、現在の借入金額を簡潔に記載します。

金融機関は、これをもとに融資判断を行うため、正確に伝えることが大切です。

奨学金や住宅ローン、車のローンなど借り入れているものと返済計画をすべて書き出しましょう。

【記入例】

借入先名借入目的残高年間返済額
〇〇銀行住宅ローン〇〇万円〇〇万円
〇〇奨学金教育費〇〇万円〇〇万円
〇〇ローンその他〇〇万円〇〇万円

必要資金と調達方法

開業に必要な資金を見積もり、その資金をどのように調達するかを記載します。

具体的な金額をリスト化し、自己資金や融資などの方法で資金をどのように準備するかを示します。

必要な資金見積先金額調達方法金額
設備資金店舗内装費
保証金
備品
株式会社〇〇
株式会社〇〇
600万円自己資金200万円
親、兄弟、知人、友人等からの借入100万円
日本政策金融公庫からの借入300万円
運転資金家賃、備品購入、光熱費100万円他金融機関からの借入100万円
合計700万円合計700万円

自己資金は、全体の資金のうち1/3〜1/4程度を用意することが望ましいとされています。

必要なものをリストアップして見積もりし、正確な金額を記載しましょう。

事業の見通し

月の売上や経費、利益など開業後の見通したを記入する項目です。

開業前に保険診療と自由診療を合わせた売上の予測は難しいですが、「平均診療単価×1日あたりの平均患者数×診療日数」で計算するのがオススメです。

また、経費や人件費、光熱費などの支出もしっかり記載し、収支のバランスを確認しましょう。

ここでは、しっかりと利益を生んでおり、生活費や返済に必要な分もきちんと支払える状態であることを伝えます。

【記入例】

開業当初軌道に乗った後売上高
売上高①〇〇万円〇〇万円【創業当初】
売上高○○万円(原価率:○○%)
実費診療:@○○円✕〇人/日✕20日=○○万円
保険診療:@○○円✕〇人/日✕20日=〇万円
人件費:○○万円、家賃: ○○万円
その他:広告費、光熱費、通信費、消耗品費、支払手数料など
【軌道に乗った後】
売上高○○万円(原価率:○○%)
実費診療:@○○円✕〇人/日✕20日=○○万円
保険診療:@○○円✕〇人/日✕20日=〇万円
人件費:○○万円、家賃: ○○万円
その他:広告費、光熱費、通信費、消耗品費、支払手数料など
売上原価②〇〇万円〇〇万円
経費人件費〇〇万円〇〇万円
家賃〇〇万円〇〇万円
支払利息〇〇万円〇〇万円
その他〇〇万円〇〇万円
合計③〇〇万円〇〇万円
利益(①-②-③)〇〇万円〇〇万円

成功するための事業計画書作成ポイント5つ

収入を厳しく見積もっておく

鍼灸院の開業初年度は売上が不安定になることが予想されるため、慎重な見積もりが求められます。

開業後、少なくとも6か月間は無収入であることを想定してたうえで、資金を用意すべきといわれています。

それだけ、すぐに患者さんが来ることは少ないため、現実的な収入の見積もりをしておきましょう。

また、季節ごとの売上変動も考え、細かく収入の見通しを立てましょう。

設備投資はなるべく小さくする

開業初期にありがちな失敗の一つは、初期投資に過剰にお金をかけてしまうことです。

とくに、内装や大型の機械などの設備投資に多額の費用を費やすと、運転資金がショートしてしまいます。

経営が苦しくならない見通しを立てるためにも、はじめは必要最低限の投資にとどめることが大切です。

売上が安定し始めてから、設備投資を行う余裕が生まれるので、その時まで待つ方が賢明です。

同業者などに見てもらい、必要に合わせて修正する

事業計画書を作成した後は、同業者や専門家に見てもらい、アドバイスをもらうことが大切です。

自分では気づかない点を指摘してもらい、現実的なプランを組み立てることができます。

また、良いアイデアをもらえるきっかけとなるかもしれません。

開業場所のリサーチを怠らない

立地は集客の成功に大きく関わります。

ターゲット層がいなければ、期待した集客が難しくなることがあります。

そのため、周囲のターゲット層や競合状況をしっかりリサーチすることが大切です。

まずはGooglemapなどを使って、競合店や地域住民の層を調べておきましょう。

そこから、現実的に見込める患者数が見えてくるでしょう。

集客戦略に注力する

集客戦略は、鍼灸院の成功に欠かせません。

どの集客ツールを使い、どれくらいの見込み患者数を獲得できるのかを具体的に考えることが大切です。

鍼灸院ならではの集客方法をリスト化し、その中から自院に合ったものを見つけましょう。

集客数の予測は売上に直結する部分なので、しっかりと計画を立てて、現実的な数字を示すようにしましょう。

以下の記事では、鍼灸院の集客方法について解説しているため、ぜひ参考にしてください。

融資・助成金を受けやすくするための3つのコツ

わかりやすい表現にする

事業計画書は、誰が読んでも分かりやすい内容にすることが大事です。

専門的な言葉や難しい表現は避け、できるだけシンプルな言葉を使いましょう。

数字やデータは、図やグラフを使うともっと伝わりやすくなります。

特に、金融機関や投資家に見てもらう際は、PowerPointなどを使って、よりわかりやすい形で説明を心がけましょう。

鍼灸院の強みと差別化のアピールポイントを明確にする

どうして自分の鍼灸院が成功するのかを説明するうえで、強みと差別化は重要なポイントになります。

たとえば、「特定の症状に特化した実績がある」「他の院にはない長時間の施術を提供している」「アフターケアが充実しているなど」自院ならではの特徴をアピールすると良いでしょう。

根拠ある数字を使う

お金のやり取りがある以上、返済能力があるかどうかを数字でしっかりと伝える必要があります。

記載した数字には、どのような根拠であるのかを説明しなければなりません。

信頼性あるリアリティのある数字出すためには、事前にエリア調査を行い、集客の見込みをしっかり計算することが大切です。

専門家に頼るのもあり

事業計画書は記入する項目も多く、根拠のある説明をしなければなりません。

そのため、専門家に頼るのも1つの手です。

例えば、税理士はお金の流れだけでなく、経営に関しても豊富な知識を持っていることが多いです。

治療院に特化した税理士に相談し、作成のサポートをお願いすることで、質の高い事業計画書を作成することができます。

例えば、税理士法人しんぎでは、鍼灸院などの治療院を得意とし、確かな実績があります。

もし、税金の計算や申告に不安があるなら、一度に相談してみるのがおすすめです。

まとめ

事業計画書を作ることで、開業の準備がスムーズに進んだり、融資を受けやすくなったりします。

売上の予想や支出の計画も立てるので、資金の管理がしやすくなります。

開業の第一歩として、大変なステップですが、自院の未来の地図として、今後が楽になります。

成功への第一歩を踏み出すために、しっかり取り組んでいきましょう。

今回の記事へのご質問・お問い合わせは、下記フォーマットにご記入の上送信してください。
内容を確認後、担当者より返信させていただきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次